アトピー生活

アトピー性皮膚炎とのなが〜い付き合い

お父さんと

朝はお湯を浴びて、夜はお風呂の後に、全身に保湿剤のワセリンと酷いところにはステロイド剤を塗っていた。
夜は父が薬つけの担当だった。几帳面なところがあって、人体図に塗る薬の名前を書き込んで柱に張りつけていた。その人体図に「ちんちん」なんて部位の名称まで書いてるもんだから、恥ずかしくて剥がすようにお願いしても、「お前の為たいろ」と聞く耳持たなかった。大人には、大概こういう子供の微妙な羞恥心は理解してもらえない。しょうがないから、友達が来る時は事前にそっと剥がして隠しておいた。


小学校高学年になって、薬つけの為に父親に全身をくまなく触られるのが嫌になってきた。明確な理由やきっかけはない。ある時突然嫌な感じがして、するとみるみるどうしようもなく堪えられなくなった。一般的に至極まともな反応だと思う。多くの子供に同じような時期に湧きだす感情。人間て不思議なもんだと思う。


しかし、父になんと言うか。なんだか怒られそうな気がして言い出しにくい。
父と仲は良かった。父の本棚から読めそうなものを探して読書するのが好きだったし、本や漫画に映画絵画など、父から影響を受けて興味を持ったものがたくさんある。でも、こういうことに関してはあけすけに喋れるもんじゃない。


で、母親に「これから自分で薬つける」と言った。母(朝の薬つけ担当)はすんなり「そうね」と言ったが、お父さんにも伝えて欲しいと言うと、「自分で言いなさい」。それで仕事から帰った父に、もごもごと「今日から自分でつける」と言った。そしたら、「なんで!」と聞いてくる。なんとなくとか何ででもと答えても納得しない。それでつい正直に「お父さんに体触られるの気持ち悪い」と言ってしまった。

まあ、怒った。当然っちゃ当然だ。私の為に7年あまり、毎晩せっせと薬を塗り続けてくれたのだ。それが「気持ち悪い」って…。「もう知らん。自分でやれ」とぷりぷり怒って部屋を出て行ってしまった。母は笑っていたような気がする。せめて「恥ずかしい」とかなんとか、他に言いようがあったのにと反省した。
一般で言うと、「もうお父さんと一緒にお風呂入りたくない」のイベントに該当するのかも。全身触られるとなると、それ以上のものがあるか。


結果、その晩から自分で薬をつけるようになった。怒っていた父も(本人は別に怒ってないと言ってたけれど)一時間ばかりしたら、普通に薬の種類やつける場所を説明してくれた。今まで毎晩最低でも40分は時間を取られていたのが自由になって、結果的に喜んでいた。今思うと、もっと早く自分でつけられたんじゃないかと思う。忙しい朝の時間に薬を塗ってくれていた母にも、本当に手間をかけたと思う。


自分でつけるようになって思ったのは、「薬をつけるためにザラザラボコボコジュクジュクの肌を触らなきゃいけないのがゾッとする」ということだった。掌の触感で肌のヤバさをひしひしと感じる。つけ終わるとげんなりするとともに、やっと終わったとホッとするのだった。